朝日新聞で無期懲役の仮釈放が取り上げられています。ニュースとして取り上げられるのは珍しいので,ここで紹介したいと思います。
記事にあるように,現在,無期懲役は終身刑に近い運用がされています。終身刑導入の是非をめぐる議論で,賛成派から「無期懲役はしばらくすると仮釈放で社会復帰できるから,死刑との差が大きすぎる。」といった意見が出されることがありますが,それは事実無根だと言わざるを得ません。
加えて,この「終身刑化」の傾向が,ここ数年の間に急速に進行していることにも気をつけたいところです。ここに貼り付けた表を見ても,仮釈放までの服役期間が明らかに長期化していることが分かります(ついでに言えば,記事に登場する60代男性が刑務所に入ったころに言われたという「仮釈放まで15年」という相場も,平成11年の時点で既に失われていたことが分かります)。
犯罪や刑罰にかかわる分野は,あまり情報が外部に流通しないこともあって,まだ誤解や偏見が多く見られます。無期懲役の仮釈放はその代表例で,法律家の中にも,正確に理解できていない人をしばしば見かけます。
被害者保護を求める声が高まっていることもあって,感情的な議論に陥りがちですが,だからこそ,冷静に論拠(evidence)を求める姿勢が大切ですね。
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仮釈放,生きる理由だった 刑務所に30年,無期懲役の元受刑者
朝日新聞デジタル
2014年10月29日05時00分
無期懲役の判決を受け,仮釈放されることなく,刑務所のなかで「最期」を迎える受刑者が増えている。社会で厳罰化の傾向が強まり,刑期が長期化しているためだ。ただ,「事実上の終身刑だ」と問題視する声もある。
昨年のある朝。8人が過ごす刑務所の雑居房で,60代の男性は居残りを命じられた。ほかの受刑者がいなくなると,刑務官が言った。「荷物をまとめろ。仮釈放,決まったから」。体が震え,涙が出た。
東北生まれ。30年以上前,借金を申し込んだ相手に断られ,コードで首を絞めて殺害,現金を奪った。強盗殺人罪で無期懲役判決を言い渡された。
長い刑務所生活が始まった。飯はまずいがカロリーは取れる。仕事はきつくても我慢できる。一番つらかったのは,自分の精神状態を保つことだった。「もう一度社会に出て,まともな生活がしたい」。それだけが生きる理由だった。
刑務所に入ったころ,「仮釈放まで15年」が相場だと聞いた。法改正などの影響で,20年,30年と延びていった。希望が遠のく。この間,仮釈放をあきらめて老いていく無期懲役の受刑者を,何人も見てきた。
それでも自分は黙々と働き,毎年の盆前に遺族に5千円を贈った。線香と花代に充ててもらうためだ。
いまはアパートで1人で暮らす。一度仕事に就いたが体調を崩してやめ,生活保護を受けている。生活は苦しいが月に一度,被害者の墓参りは欠かさない。「本当に申し訳ないことをした。一生背負って生きていく」。そう誓い,手を合わせている。
*被害者,多数が反対の思い 専門家,希望あれば更生も
「無期懲役ならずっと刑務所にいるべきだ,仮釈放してほしくない,というのが被害者家族の正直な気持ちだろう」。犯罪被害者支援に長年関わっている番敦子弁護士は話す。
仮釈放について被害者家族らが意見を言うことができる制度が定着した。番弁護士は「実際,仮釈放に反対する家族が多い」という。被害者が1人の殺人事件で,被告が死刑判決を受けるケースはほとんどない。遺族は死刑を望むことが多く,仮釈放を受け入れられないのも実態だ。
一方で,刑事政策に詳しい常磐大学大学院の藤本哲也教授は「社会復帰の希望があれば,受刑者は被害者への謝罪にも気持ちが向きやすくなる。仮釈放は更生という観点でも意味がある」と話す。
刑務所にいる期間が長いほど拘禁症状が出やすくなるという。刑務所での生活が30年を過ぎると社会復帰への意欲が大きく減退するという調査結果もある。認知症のリスクも高まる。
藤本教授は「現状では無期懲役刑は実質的に終身刑化しており,形骸化している。仮釈放がある刑罰として維持するのであれば,何らかの方策を考える必要がある」と指摘する。
(北沢拓也)
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<仮釈放の審理>
高裁がある全国8都市(関東地方はさいたま市)の「地方更生保護委員会」が行う。委員は法務省OBが中心だが,近年は教員や会社役員など民間出身者が増えてきた。委員3人一組で,受刑者の面接のほか,刑務所内の生活態度,被害者家族の聞き取りなどから判断する。
無期懲役の受刑者の審理は,2009年から,刑の執行から30年が経過すると自動的に行われる仕組みになった。ただ,身寄りがないことや病気などで社会復帰の見込みが低いといったことも,仮釈放を阻んでいる。
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http://digital.asahi.com/articles/DA3S11427018.html?_requesturl=articles%2FDA3S11427018.html
あびこ